
「うちも生成AIを導入したほうがいいのだろうか」。
そんな相談が企業の現場で珍しくなくなりました。
ただ、2026年の企業ブランディングを考えると、AIを使っているかどうかだけでは差がつきません。
むしろAIが広がるほど、「この会社だから頼みたい」と思わせる理由を持つ企業が強くなっています。
日本企業のAI活用はまだ16%|2026年に起きている企業競争の変化
2026年8月、日本企業のAI活用について興味深い数字が出てきました。
ロイターが報じた企業調査では、AIを全社的に活用している日本企業は16%にとどっています。
調査は7月29日から8月6日に行われ、510社に調査を依頼し、219社から回答を得たものです。
約60%の企業はAIを一部の業務で利用しているものの、18%は導入について判断しておらず、6%は導入を検討していません。
つまり、日本企業の8割以上が、まだAIを会社全体の仕組みとして十分に取り込めていない状況です。
この数字だけを見ると、
「だったら早くAIを導入した会社が勝つ」
と思うかもしれません。
ところが、企業ブランディングの視点から見ると、話はそれほど単純ではありません。
AIを使えば「平均点」は簡単に上げられる
例えば、従業員30人の製造会社を想像してください。
これまで営業担当者が2時間かけて作っていた提案書を、生成AIを使って30分で作れるようになったとします。
月20本の提案書を作るなら、
2時間×20本=40時間
だった作業が、
30分×20本=10時間
まで短くなります。
単純計算なら月30時間の削減です。
これは企業にとってかなり大きな改善です。
商品説明、議事録、メール、採用文章、営業資料、FAQなども同じでしょう。
実際、ロイターが報じた調査でも、全社的にAIを利用している企業であっても、文書作成など比較的基本的な用途での利用が含まれています。
ここで経営者には、一度立ち止まって考えてほしいことがあります。
競合会社も同じAIを使い始めたら、その30時間削減は「自社だけの強み」でしょうか。
おそらく違います。
A社もAIで提案書を作る。
B社もAIで広告を作る。
C社もAIで採用ページを書く。
数年後には「AIを使っています」という説明そのものが、パソコンやクラウドサービスを使っていることと同じくらい普通になる可能性があります。
ここが、2026年の企業ブランディングを考えるうえで見落としたくない部分です。
「AIを使える会社」と「選ばれる会社」は別物
例えば、同じ住宅リフォームを扱うA社とB社があったとします。
A社のホームページには、
「高品質な施工を提供します」
「お客様第一を大切にしています」
「地域密着で対応します」
と書かれています。
文章そのものはきれいです。
しかし、この内容だけでは、他社との違いがほとんど分かりません。
一方、B社には、
「見積もり後の追加工事は必ず施工前に金額を説明する」
「担当者の顔と資格を公開する」
「施工前・施工中・施工後を写真で残す」
「雨漏りの相談には原則24時間以内に一次回答する」
と書いてあるとします。
あなたが100万円の工事を頼むなら、どちらに問い合わせたくなるでしょうか。
B社が伝えているのは、格好いいキャッチコピーではありません。
会社が実際にどう動くのかという事実です。
ここにブランドが生まれます。
AIは文章を整えることはできます。
しかし、
「雨の日でも現場確認を続けてきた」
「創業以来、この地域から撤退しなかった」
「クレームが起きた翌日に社長が訪問した」
といった会社固有の経験まで自動的に作り出すことはできません。
作ってしまえば、それは事実ではなくなります。
企業ブランディングでAIを利用するときに、最も注意したいところです。
AIで会社の発信が「同じ顔」になる危険もある
生成AIは便利ですが、使い方によっては企業サイトの文章が似てしまいます。
「お客様に寄り添う」
「未来を創造する」
「最高のサービスを提供する」
「地域社会に貢献する」
こうした言葉だけでは、会社名を隠した瞬間にどこの企業なのか分からなくなります。
これはブランドとして少し怖い状態です。
文章はきれいなのに、会社の顔が見えないからです。
2026年8月13日には、シタテルが荒井建設、KESIKIとともに「AIでは生まれない『企業らしさ』」をテーマとするブランドづくりセミナーの開催を発表しました。
AIの活用が広がる一方で、企業固有の文化や価値をどう表現するのかがテーマになっている点は象徴的です。
つまり、これから企業が競うのは、
「AIを使えるか」から「AIを使っても自社らしさを失わないか」へ
少しずつ移っていくのではないでしょうか。
AI時代に選ばれる企業ブランディング|「会社らしさ」を数字と事実で見せる
では、中小企業は何をすればいいのでしょうか。
大規模なブランド戦略を始めたり、高額な広告を出したりするところから考える必要はありません。
私はむしろ、ホームページを開いて、
「会社名を隠しても、この会社だと分かる情報がいくつあるか」
を確認するところから始める方法が分かりやすいと思っています。
試しに自社サイトを見てください。
会社概要、サービス紹介、採用情報、お客様の声、ブログ。
そこに書かれている会社名を競合企業の名前へ置き換えても、文章が成立してしまわないでしょうか。
成立するのであれば、まだ「その会社だから選ぶ理由」を十分に伝えられていない可能性があります。
「高品質です」より数字を一つ出したほうが伝わる
例えば製造会社なら、
「高品質な製品を提供しています」
よりも、
「2025年度納品1,248件、納期遅延2件」
と書いたほうが、取引担当者は具体的に判断できます。
採用ページでも同じです。
「社員を大切にしています」
だけでは会社の姿が見えません。
例えば、
「有給休暇平均取得日数14.2日」
「平均残業時間月8.6時間」
「入社3年以内の定着率91%」
と実績を出せれば、求職者が比較する材料になります。
もちろん数字は実際のデータだけを掲載し、集計期間や対象範囲も明記しなくてはいけません。
都合のいい数字だけを切り取れば、反対に信用を落とします。
つまり、ブランドづくりとは会社を実物以上によく見せる作業ではありません。
すでに会社の中にある強みを、第三者が判断できる形へ変える作業です。
ここを間違えると、ブランディングが単なる広告になってしまいます。
社長の頭の中にある「当たり前」を掘り出してみる
実際に中小企業を見ると、意外なところにブランドの材料があります。
例えば町工場の社長が、
「うちは納品前に必ず二人で確認するよ。20年前からそうだから」
と何気なく話したとします。
本人にとっては当たり前です。
しかし顧客側から見れば、
20年間続けているダブルチェック体制
という立派な品質情報になります。
飲食店なら、
「毎朝市場へ仕入れに行く」
工務店なら、
「施工後に社長自身が確認する」
清掃会社なら、
「作業前後の写真を必ず残す」
運送会社なら、
「事故防止のため毎朝10分の安全確認を続ける」
こうした日常業務に、その会社の考え方が表れています。
ところが企業サイトを見ると、その部分を書かず、
「安心・安全を提供します」
という一文だけで終わっているケースがあります。
それでは、少しもったいない。
理念を説明するより、理念が現れている行動を見せる。
これがAI時代の企業ブランディングでは強い武器になります。
AIには「作らせる」のではなく「掘り起こさせる」
ここでAIを否定する必要はありません。
むしろ使ったほうが仕事は速くなります。
使い方を変えるのです。
例えば生成AIへ、
「会社紹介を書いて」
と頼むだけではなく、
「競合会社と違う部分を見つけたいので、社長への質問を30個作って」
と頼んでみます。
そこで、
「創業した理由は?」
「お客様から一番多く言われる言葉は?」
「絶対に値下げしない仕事は?」
「クレームが発生したとき誰が対応する?」
「競合にはまねしにくい工程は?」
「社員が辞めずに残っている理由は?」
などを聞き出していきます。
回答した内容から事実だけを整理し、ホームページや営業資料へ反映するわけです。
AIがブランドを作るのではありません。
人間の中にあるブランドを見つける作業をAIに手伝わせる。
この使い方なら、効率化と企業らしさを両立できます。
ホームページだけでなく「AIからどう見える会社か」も確認する
もう一つ、2026年だからこそ確認しておきたい場所があります。
生成AI上で自社がどのように認識されているかです。
8月10日に発表されたAhrefsの情報では、AI検索可視化機能「ブランドレーダー」が、日本のAI応答約2,363万件を基盤として主要5つのAI検索でブランドの言及や引用元を分析するとしています。
検索対策がGoogleだけでは終わらなくなりつつあることを示す一例です。
例えばユーザーが、
「熊本で○○に強い会社は?」
「初心者でも相談しやすい○○会社は?」
と生成AIへ質問する場面が増えれば、企業は検索結果だけでなく、AIが回答を作る際に参照できる情報も整えておくことになります。
そのためには、会社概要だけを置くのでは足りません。
事業内容、料金、対応地域、実績、担当者、資格、事例、FAQ、会社の考え方などを、分かりやすい文章で公開しておく。
記事には公開日や更新日を表示し、古くなった数字は更新する。
サービスページと事例記事を内部リンクで結び、「何をしている会社なのか」がサイト全体から読み取れるようにする。
これは従来のSEOにも役立ちますし、人間が読んだときの安心感にもつながります。
AI導入を急ぎすぎるデメリットも見ておきたい
ただし、AIを取り入れれば企業ブランディングが自動的によくなるわけではありません。
顧客情報や社外秘情報を不用意に入力する危険がありますし、生成された文章に誤った数字や存在しない実績が混ざる可能性もあります。
さらに社員全員が自由に文章を生成すると、営業資料とホームページで会社の説明が違う、といった問題も起こり得ます。
AI導入の前に、
「入力してはいけない情報」
「公開前に誰が確認するか」
「数字の出典をどこに残すか」
「会社として使わない表現は何か」
くらいは社内で決めておいたほうが運用しやすくなります。
速さだけを求めてブランドへの信頼を失ってしまえば、本末転倒です。
AI導入の目的は「人を減らすこと」だけではありません。
30時間削減できたのなら、その30時間の一部をお客様への聞き取り、社員教育、商品改善、事例取材へ回す。
そこまで設計できれば、AIは単なる業務効率化ツールではなく、ブランドを強くするための時間を生み出す道具になります。
まとめ|AI時代ほど「この会社だから」が企業の価値になる
2026年8月の調査では、AIを全社的に活用している日本企業はまだ16%でした。しかし、この数字は今後変わっていくはずです。AIが広がれば、文章作成や資料作成など、これまで企業間にあった小さな能力差は縮まっていきます。
だからこそ企業が今から見つけたいのは、AIそのものではなく「自社にしかない事実」です。
納品件数、継続率、対応時間、仕事の工程、社員の行動、創業時の約束、お客様とのエピソード。会社の中を探せば、広告会社が作ったキャッチコピーより強い材料が眠っていることがあります。
AIに会社らしさを作らせるのではなく、会社の中に眠っている「らしさ」をAIと一緒に掘り起こす。
今日、自社ホームページを一度開いてみてください。
そして会社名を隠し、こう問いかけてみてください。
「この文章を読んで、本当にうちの会社だと分かるだろうか?」
答えが「分からない」だったとしても、それは悪い結果ではありません。
そこが、これから企業ブランドを強くできる出発点です。
「あなたの会社らしさ」を見つけませんか?
AIを導入すれば、文章や資料は以前より速く、きれいにつくれるようになります。 しかし、競合企業も同じAIを使えば、それだけでは「選ばれる理由」にはなりません。
本当に見つけたいのは、他社には簡単にまねできない 実績・経験・仕事への姿勢・お客様との関係・会社独自の強みです。 それらをきちんと言葉にして伝えることで、価格だけでは比較されない企業ブランドへ近づいていきます。

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